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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)143号 判決 1998年1月27日

原告

在本茂

被告

濱中清海

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自九〇万〇七六七円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自五〇五万九七八五円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、自動車を運転中、被告濱中清海(以下「被告濱中」という。)が運転する自動車に衝突され負傷するとともに自車が損傷したとして、被告濱中に対しては民法七〇九条に基づき、被告株式会社ハマプルーフ(以下「被告会社」という。)に対しては商法二六一条三項(同法七八条二項、民法四四条一項)に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告濱中は、平成七年七月一日午後五時一七分ころ、普通乗用自動車(なにわ三三と五九〇八、以下「被告車両」という。)を運転して、兵庫県西宮市塩瀬町名塩字上滑所属中国縦貫自動車道上り二五・六キロポストを走行するにあたり、前方を走行中であった原告の運転する普通乗用自動車(神戸三四せ七九一五、以下「原告車両」という。)に被告車両を追突させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告濱中の過失によって発生した。被告濱中は、被告会社の代表取締役であり、本件事故当時、被告会社の職務として被告車両を運転していた。

二  争点

本件事故によって原告の受けた損害の額が争点である。

第三当裁判所の判断

一  原告は、本件事故によって次のとおりの損害を受けたものと認められる。

1  休業損害 (請求一一五万一七七四円)

(一) 甲第二ないし第八号証、第一九号証、第三二号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告は、公認会計士兼税理士であり、本件事故当時、清友監査法人の代表社員として監査法人業務に従事する一方、在本公認会計士事務所の所長として税理士業務に従事しており、平成六年には、監査法人業務による給与所得として三一〇万五〇〇〇円、税理士業務による事業所得として八二八万五〇六三円(青色申告特別控除前の所得金額は八六三万五〇六三円)の収入があった。

(2) 原告は、平成七年七月三日に公立学校共済組合近畿中央病院を受診し、頸椎捻挫で今后約一週間の安静加療を要する見込みであると診断され、以後、同月六日、同月一二日、同月一八日、同月二五日、同年八月八日、同年九月四日に同病院に通院して保存的治療を受けた。原告は、この間、平成七年七月三日から同月八日までは仕事を休み、そのほか右通院日を加え本件事故により合計一一日間休業した。

(3) 原告は、本件事故により清友監査法人を平成七年七月一日から同月三一日までの間に八日間欠勤したため、同法人からの給与について一三万三三三三円の減額を受けた。

(二) 右によると、税理士業務による事業所得分は次のとおり二六万〇二三四円となり(円未満切捨て)、これに監査法人業務における給与の減額分である一三万三三三三円を加算した三九万三五六七円が原告の本件事故による原告の休業損害と認められる。

計算式 8,635,063÷365×11=260,234

(三) 原告は、原告の休業損害の事業所得分を算定するにあたり、平成六年度の青色申告特別控除前の所得は八六三万五〇六三円であるところ、これに固定経費である青色専従者給与、給料賃金、地代家賃、減価償却費、福利厚生費、利子割引料、退職金の合計額一六七三万三三九一円を加えた二五三六万八四五四円を原告の基礎収入とすべきであると主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、原告はその休業期間中も原告の事務所を閉鎖し一切の業務を停止する等したものではないことが認められるから、右経費の負担が全くの空費となったものとは認められないうえ、原告の休業日数はわずか一一日であり、原告が右休業中に右経費を支出したことから原告に現実にどのような損害が生じたのかは証拠上不明であり(原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の平成七年度の事業所得は、平成六年度と比較して減少はしていないものと認められる。)、原告の右主張は採用できない。

2  タクシー代 〇円(請求一万二九九〇円)

原告は、本件事故によりタクシー代として一万二九九〇円の損害を受けたと主張するが、右タクシー使用の目的及び必要性は不明であり、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りない。

3  車両損害 二四万七二〇〇円(請求一六五万五〇二一円)

(一) 甲第九号証、第一四号証、乙第一ないし第三号証、乙第四号証の一、四ないし二一、二四ないし五一、第六号証、第七号証の一ないし四及び原告本人尋問の結果によれば、原告車両は、初度登録が平成七年五月三〇日で、本件事故当時の走行距離は約九〇〇キロメートルであったこと、原告から依頼を受けた兵庫トヨタ自動車株式会社は、原告車両を修理し、修理完了後走行テスト、ハンドルの歪み等のチェックを行ったところ問題はなく、その後原告車両は原告に引き渡されたこと、右修理には一二三万六〇〇〇円を要したことが認められる。

(二) 原告は、原告車両の本件事故直前の評価額は四二七万一〇四八円であり、これに消費税(一三万六五六〇円)、自動車取得税(二〇万四〇〇〇円)、自動車重量税(七万五六〇〇円)、自賠責保険料(四万三八〇〇円)、諸費用等課税対象分(三万六〇八〇円)及びこれに対する消費税(一〇八一円)、諸費用等非課税分(五九二〇円)、自動車税(一万六六〇〇円)の合計額(ただし、自動車重量税及び自賠責保険料の各一か月分合計四四六八円を控除したもの)を加算した四七八万六二二一円と、原告が修理後の原告車両を売却して得た代金三一三万一二〇〇円との差額である一六五万五〇二一円は本件事故による損害であると主張する。

しかし、本件では、原告が、本件事故当時原告車両を売却する予定であったというような事情は認められないから、仮に、本件事故によって原告車両の評価額が下がったとしても、原告車両の本件事故直前の評価額と右下落後の評価額との差額をもってただちには本件事故による損害と認めることはできない。しかも、一般に、不法行為の被害者は加害者に対して被害または損害を最小にとどめるべき信義則上の義務を負うものと解すべきであるところ、原告車両は前記のとおり機能上の問題を残さずに修理が完了したものであるから、原告がその後原告車両を他に売却したとしても、それは原告が自己の判断において行ったものであって本件事故との間に相当因果関係を認めることはできないというべきであり、これと前提を異にする原告の主張は採用できないというほかない。

(三) もっとも、原告車両は、本件事故当時はまだ初度登録後約一か月を経過したにすぎない車両であるうえ、乙第一ないし第三号証、第六号証によれば、原告車両は、本件事故によってリアフロアパネル、フロアクロスメンバー、左右フロアサイドメンバー等に損傷を受け、リアフロア、左右リアサイドメンバー部については溶接による修理を行っていることが認められ、右の諸事情を考慮すれば、原告車両には、本件事故によって修理費用のほかにいわゆる格落ちによる損害が生じたものと認められ、右は修理費用の二割とするのが相当であるから、前記修理額の二割である二四万七二〇〇円をもって右による損害であると認める。

4  代車費用 〇円(請求一四八万円)

(一) 甲第一四号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、平成七年七月三日に原告車両を兵庫トヨタ自動車株式会社(以下「兵庫トヨタ」という。)に搬入したが、被告会社が被告車両について自動車保険契約を締結していた安田火災海上保険株式会社(以下「安田火災」という。)に対し、原告車両と同程度の車両を提供するよう要求していたため、兵庫トヨタでは原告車両の修理に着手することができずそのまま推移し、その後、原告が、弁護士から修理は被害者がするものであるとの助言を受け、修理をしなければ話が前に進まないと考えて、同月二一日になってはじめて兵庫トヨタに原告車両の修理に着手するよう指示をしたこと、これを受けて兵庫トヨタと安田火災との間で修理見積協定のための協議が行われたが、右協議が長引くなどしたため兵庫トヨタは同年八月三日になってようやく修理に着手し、同年九月四日に修理は終了したが、その後、兵庫トヨタにおいて原告車両の走行テスト、ハンドルの歪み等のチェックを行い、同月一四日になって原告に引渡しが可能な状態となったことが認められる。

(二) 原告は、被告らは、一日あたり二万円の代車費用を、本件事故の翌日から修理が完了した平成七年九月一四日までの七五日間支払うべきであると主張し、本人尋問において、安田火災の担当者から、原告車両の代車費用として修理期間中に一日二万円程度を支払うと言われたと供述する。しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告は、安田火災の担当者から、原告車両を修理するのであればそのために必要な期間は代車を提供するが、別の車両の提供を主張するのであれば代車の提供はできないと言われ、代車の提供も代車費用の支払も受けられず、平成七年七月二一日に兵庫トヨタに原告車両の修理に着手するよう指示した後は、安田火災に対し代車の提供を申し出たことはないことが認められるから、右によると、原告と安田火災との間で代車に関してなんらかの合意が成立したものとは認められず、安田火災の担当者が原告車両の代車費用として修理期間中に一日二万円程度を支払うと言ったことがあるという事実によっては、原告の右主張を認める根拠にはならないというべきである。

(三) ところで、甲第二二、第二三号証によれば、原告は、平成七年七月八日から九日までレンタカーを使用し、そのための費用として一万三〇〇〇円を支出し、また、その後も同月一五日ころまで別のレンタカーを使用し、そのための費用として五万三四六〇円を支出したことが窺われるけれども、右は、原告が兵庫トヨタに対し、原告車両の修理を指示する以前のものであり、修理に必要な期間中に使用したものとはいえないから、右支出をもって本件事故と相当因果関係のある損害であるということはできない。

また、甲第二四ないし第二八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、原告の妻の父親である伊藤輝彦(以下「伊藤」という。)との間で、伊藤の所有する普通乗用自動車(トヨタ・マークⅡ、以下「伊藤車両」という。)を、平成七年七月一七日から同月三一日までは一日一万円、同年八月一日から同月一五日までは一日八〇〇〇円、同月一六日から同月三一日までは一日五〇〇〇円、同年九月一日から同月三〇日まで一か月六万円との約定で借り受けたことが認められる。しかし、乙第五号証によれば、伊藤車両は初度登録が昭和六一年五月と相当古いことが認められるから、伊藤車両の時価額はかなり低いものと推認されるところ、これに照らして右賃料額が相当額といえるか疑問であるといわざるをえないうえ、原告本人尋問の結果によれば、原告は、伊藤が高齢であり、伊藤車両をあまり使用していないということからこれを伊藤から借り受けたことが認められ、原告と伊藤との間に姻族関係があることも考慮すると、原告が右賃料を伊藤に支払ったとしても伊藤車両の使用との間に明確な対価関係を認めるのは困難であるといわざるをえず、これをもって本件事故と相当因果関係のある損害であるということはできない。

(四) よって、代車費用に関する原告の主張は採用できない。

5  慰謝料 一八万円(請求三〇万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには、一八万円の慰謝料をもってするのが相当である。

6  弁護士費用 八万円(請求四六万円)

本件の性格及び認容額に照らせば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は八万円とするのが相当である。

二  以上によれば、原告の損害は九〇万〇七六七円となるところ、原告の本訴請求は、右金員及びこれに対する本件事故の日である平成七年七月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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